フェノールの合成②
それでは続きから~
1.芳香族置換反応
(2)ベンザインを経る置換反応
前回紹介した芳香族置換反応には
電子求引基が必要
といったような書き方をしていたんだけど
電子求引基がなくても起こす方法がある。
それが今回紹介するベンザインを経由する方法だ。
方法を簡単に紹介すると以下のように
ハロベンゼンに強力な塩基(この例ではKNH2:カリウムアミド)と酸性溶媒を使う。
※塩基が少し弱い時は高温高圧を条件に加えたりします。
なるほど、こいつを(1)の時みたいにイプソ置換で反応させるのか~
と思った人もいそうだけど違います。
先に紹介した反応を
放射性元素で標識(※)すると、以下のような結果になる。
※特定の原子における同位体組成を天然のものから変えることです。
□何をしたいかというとこいつがどうなっていくかを分かり易く
□マーキングしております。
□ただ最終的な目的からtracerって呼ばれています。
今回はClにくっついているCをC14で標識しております。。
このことから何が分かるかというと
標識された炭素(C1)上に置換基をもっているのが
生成物の半分しかないってことだ。
※残りは何故かC2にあるのです。
この現象の原因は求核剤が
イプソ位かオルト位についている点だ。
つまり最初に塩基によってベンゼン環からHXが脱離しているからなんだ。
この脱離反応は協奏的ではなくむしろ段階的に進行する。
つまり、まず①脱プロトン化が起こり
その後②脱離基が脱離する2段階反応ということだ。
上記の反応はいずれの過程も起こりにくいが、②の方が起こりにくい。
それぞれ起こりにくい理由を説明しておこう。
①脱プロトン化が起こりにくい理由
まず、プロトンの脱離部分は二重結合であり、C-Hのsp2混成軌道だ。
つまり、酸性度は非常に低い(pKa=44くらい)。
まあ、ベンゼン環という見るからに安定な状態を壊すという行為なので
どんな大変さか、というのは想像しやすいんじゃないかな?
細かい話すると、
脱離後のアニオンに隣接するベンゼンのπ電子系はこれを安定化することはできない。
なぜならアニオンの負電荷はπ電子骨格対して垂直なsp2軌道に入っていて
そのために六員環の2重結合と共鳴することができないからだ。
というわけで①脱プロトン化を起こすには強力な塩基が必要になる。
ちなみに脱プロトン化がハロゲンのオルト位で起こるのは
ハロゲンの誘起性電子求引効果(-I効果)によってオルト位の水素の酸性度が他の位置よりも高くなるからです。
※参考:酸性の強弱
②ベンザイン(benzyne)の生成が起こりにくい理由
※benzyneはdehdrobenzeneとも
見た感じで何となく想像できるんじゃないかと思うんだけど、理由は構造にあって
ひずみが大きすぎるんだ。
※参考:混成軌道、アルキンの特徴
さて三重構造→直線構造だったのは覚えているだろうか。
まぁ見ての通りベンゼン環の形状だと、見るからに直線構造には無理があるんだよね。
だから三重結合は無理やりねじ曲げられている状態になっている。(ド不安定です。)
つまり、ベンザインはとても反応しやすい状態になっているってことなんだ。
実際ベンザインはこの反応条件下では活性中間体として存在するのみで、
求核剤からすぐに攻撃される。
※求核剤は、ここではアミドイオンや溶媒のアンモニアね。
そして三重結合の両端は等価なので付加反応はどちらのC上でも起こりうるので
C14で標識したクロロベンゼンからできるベンゼンアミンが2種類出来るっていうことになるんだ。
う~む、中々進みませんな・・・。
ではまた次回。
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