オキサシクロプロパンの合成
今回はオキサシクロプロパンの合成について
主な方法は以下の3つ
・工業的合成
・Williamsonのエーテル合成
・ペルオキシカルボン酸による酸化
では一つずついってみよー。
工業的合成
一般企業の工場でよく使われてるオーソドックスな大量生産方法と思ってくれればいいかな。
具体的にはエチレンと酸素を
・圧力1~3Mpa
・温度200度~300度で銀を担持(※)させたアルミナ触媒
を用いて反応させる。
確か(※)部分が初見なんじゃないかなと思うので解説しておくと
まず担体とよばれる土台になる物質(この場合はアルミナ触媒)がある。
この土台に対して粉上の物質(今回でいうと銀)を付着させることを担持っていいます。
じゃあなぜ担持をするのか?って思うかもなんだけど
まず反応させるにあたって特に金属なんかは塊よりも細かい粉末の方が反応しやすい。
※肉も厚いと火を通すの大変じゃん?そんなイメージ。
ただ粉だとちょっとした空気の流れとかでどっかいっちゃうかもしれないから
安定した無駄のない反応を進めるうえでどうにかその場に固定した方が都合がよいよね?
ってことで行っています。
この方法で日本国内でも年間100万トン弱くらい製造している。
まぁだけど大学研究室レベルでこのやり方はまずないだろう。
理由はお察しの通りで少量生産を考えた時のコスパが悪すぎるからだ。
※普通に製品として買った方が早いし安い(笑)
余談になるけど大量生産の工法としてはこれ以外にも10以上のやり方がある。
興味のある人は
「エチレンオキシドの工業的製法」
あたりでググってみよう。
いろいろ出てきます。
Williamsonのエーテル合成
細かい話は
応用編:エーテルの合成②
で解説済みなのでそちらを見てくだされ。
※環状エーテルの合成の説明で触れている「シンプルな例」がそのまんまになります。
ペルオキシカルボン酸による酸化
さて見覚えがある名前が出てきたよね?
応用編:エーテルの反応
でペルオキシド構造を紹介したと思うけど
これをカルボン酸に近づけた下のような構造をもつものがペルオキシカルボン酸だよ。
でオキサシクロプロパンの合成によく使われるのがこの構造を持つ
m-クロロペルオキシ安息香酸(m-chroloperoxybenzoic acid)
っていうやつで、以下のような構造をしている。
別名メタクロロ過カルボン酸やらmCPBAとも呼ばれているよ。
性質として
・酸化力がとても高い。
・↑なので火花や落下の衝撃で爆発する。(可燃性のものと超反応します)
となかなかにデンジャラス。
なので販売されているものは水で60~70%くらいに薄められているよ。
で、こいつとアルケンを反応させると、以下のようになります。
さて具体的なことはまた別で説明しようと思うけど
注目してほしいことが一つ
それはアルケンの立体化学が保たれているってところだ。
※CH3とCH3CH2が逆方向にある状態が保たれますねーってこと
反応機構を詳しく書くと下のようになる。
さてちょっと奇怪な反応になっているよね(笑)
では説明していこう。
まずペルオキシカルボン酸が求電子剤としてアルケンの2重結合を攻撃している。
※ペルオキシカルボン酸が求電子剤である理由としては
下図のように誘起効果でOHのO上にδ+があるから。
でこの置換基の誘起効果を比較したものが以下(長い…)
―NH3+>―NO2>―SO2R>―CN>―SO3H
>―CHO>―CO>―COOH>―COCl>―CONH2
>―F>―Cl>―Br>―I>―OR>―OH>―NH2
>―C6H5>―CH=CH2>―H
※もっと正確にいうと水素を基準にして
-I効果の強い順から+I効果が強い順に並べたものです。
で今回問題となるCOとOHで見た時は
―CO>―OH だよね。
ということは―COO側で-I効果が働くので
―OHのOの電子は引き寄せられる上に自分の+I効果のせいで
電子を隣のOに渡すことになる。
だから先に紹介したような電荷の偏りが生じるんだ。
そして、攻撃される側、アルケンではどこの電子が一番多いのかというと
上図の通りで2重結合の部分が一番多いよね。
つまりは、一番電子を求めてるペルオキシカルボン酸のOが
一番電子が多いアルケンの2重結合を攻撃しているから
こういった反応になった、ということなんだ。
ちょっと長くなったねー最後まで読んでくれてありがとう!
ではまた次回。
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