フェニルメチル炭素の反応性③
それでは続きから~
2.ベンジル位の酸化と還元
さて酸化や還元反応のような
芳香族性の6電子環状構造を壊すような反応
っていうのはかなり起こりにくい反応だ。
芳香族置換反応(参考:ベンゼンの反応①)は?
と思ったかもしれないけど、あれは反応後も芳香族性を保っているので例外です。
逆に、前回、前々回と紹介したフェニルメチルの内容から分かる通り
ベンジル位は酸化、還元反応が起こりやすい
ということでこの点を詳しく見てみよう。
(1)酸化
KMnO4やNa2Cr2O7のような反応剤は
以下のようにアルキルベンゼンのアルキル基をCOOHにまで酸化できる。
※反応機構は アルコールの反応① をご参考に
※アルコールの反応①でも触れてるけど
□第3級アルキルベンゼンは酸化できません。
□ご注意を。
この反応は
まずベンジル型アルコール
次にケトン
を経て進行する。
そして穏やかな酸化剤を使うことで、反応をケトンの段階で止められるものもあります。
例えば以下
また、MnO2を使うと、他のベンジル位ではないOH基があっても
ベンジル位のアルコールだけを選択的に酸化できたりします。
参考:アルデヒドとケトンの合成①
(2)還元
さて酸化と来たのでお次は還元を
ベンジルアルコール類またはベンジルエーテル類を金属触媒の存在下でHと反応させると
C-O結合が開裂して、そこにHが入り込む。
この反応は、水素化分解(hydrogenolysis)と呼ばれていて
触媒(Pd-C)によって活性化されたHによるσ結合の開裂反応となります。
Pd-Cはパラジウム炭素というもので
簡単に言ってしまえば活性炭の上にパラジウムをくっつけたものだ。
上記のようにHに変換する水素化反応なんかでよく使われております。
ちなみに、普通アルコールやエーテルでは水素化分解は起こらない。
ということは?
そうフェニルメチル基を以下のように使えば、OHの保護基にもなるっていうことだ。
例えば以下の反応機構を考えてみよう。
こちらは精油の1部だ。
名前は結構有名なので聞いたことはあると思うけど
精油はエッセンシャルオイルともいわれ、植物から取れる油で
主に薬や香料に使われてたりしてるやつだね。
で、反応機構を全部まとめると以下のようになります。
・・・まぁ如何せん長いので1つずつ分解してみていこう。
※といってもほぼ全て既出なので
□忘れていたら復習がてら参考の頁を読み直してください。
①フェニルメチルによる保護
まず今回のメインであるSN2反応によるフェニルメチルでOHの保護を行う。
NaHは、OHからHを奪い、求核性を強くするために使う。
あとPhはphenylの略で
正確には以下のようになっています。
※こうしないとごちゃごちゃするので
②アセタールの加水分解
③Wittig反応
アルケンが出来ます。
参考:アルデヒドとケトンの反応⑦
④ヒドロホウ素化-酸化
アルケンをアルコールにします。(置換基が少ない方にOHをつけます)
参考:アルケンの反応③
⑤酸化
④でつけたOHをケトンにまで酸化します。
参考:アルコールの反応①
⑥有機金属反応剤によるアルキル基の付加
⑦フェニルメチル保護基の脱離
①でつけたフェニルメチル保護基を
今回のメインであるH2の還元することにより元のOHに戻してFINISHです。
今までなんとなく覚えていただけの人もいるかもしれないけど
今回紹介したように反応機構はうまく組み合わせてこそ役に立つものなんだ。
個別の技のレパートリーだけ増やしても
有効な技をその場で使えない、もしくは単発で終わってしまってはもったいない(し意味もない)。
そこら辺を意識していただくと色んな見方が出てきて
より興味を持って楽しく学んでいけるんじゃないかと思います。
ではまた次回。
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