フェニルメチル炭素の反応性①
さて、お次は
フェニルメチル炭素
についてだ。
また???なやつが登場して困惑しているかもしれないけど
実はこいつ自体はひっそりと既に別名で登場している。
それが何かというと
benzyl(ベンジル)
だ。
まぁ本当にちょろっとしか出ていないので覚えている人は
少ないかもしれないね・・・
どんなものかというと、以下のような感じです。
ちょっとは思い出してきたかな?
こいつは例えば
・アスピリン(有名な解熱鎮痛剤)
・染料
・ビタミン
を作る際にその前段階(前駆体、プリカーサー)の物質として
製造過程の中で用いられます。
今までよりもちょっとマニアックな要素が強めになるので
ここではまず以下について解説しようと思います。
1.フェニルメチルの種類
2.ベンジル位の酸化と還元
それではいってみよー。
1.フェニルメチルの種類
まずはこのフェニルメチル(ベンジル)についてなんだけど見ての通り
CH3-C6H5(メチルベンゼン)
の
CH3のC-H結合の1つがほどける事で出来上がる。
単純にほどけるというだけなら
1種類と思うかもだけど
ラジカルで紹介したホモリシス開裂とは別に
ヘテロリシス開裂っていうアニオンとカチオンに分かれるパターンもある。
つまり、以下の3種類の可能性があるってことだね。
こいつらは、どれも安定だ。
なぜならベンゼン環のπ電子系が、CH2(+,・,-)の
もう1つのp軌道と重なっているからだ。
つまり、1つのπ電子系と3つ目のp軌道との重なりが
アリル(2-プロペニル)型中間体を安定化するのと同じようなことが起こっているということだ。
参考:アリル系の特徴①
ちなみにこの共鳴による安定化は
ベンジル型共鳴(benzylic resonance)と呼ばれ
ラジカル、カチオン、アニオン中心を安定化します。
それでは、こいつらについてもう少し詳しく見てみよう。
(1)ベンジル型ラジカル
ベンゼンはルイス酸を加えない限り
Cl2やBr2等のハロゲンと反応しないことは昔説明した通り。
参考:ベンゼンの反応③
つまり、ルイス酸の触媒作用によってベンゼンのハロゲン化が促進されていたわけだね。
ただルイス酸がなくても熱や光によってもハロゲンをつけることはできたりします。
こいつは、多くのハロゲンを使うと多置換が起こることがわかっていて
このベンジル位のハロゲン化の反応機構は
・アルカンのハロゲン化
・アルケンのアリル位のハロゲン化
と同じくラジカルができるものなんだ。
参考:アルケンの反応⑤、アリル系の反応①
さてでは順番に反応を見てみよう。
①開始反応
まず、熱又は光によってハロゲン分子は2つの原子に解離する。
②伝搬段階1
①の原子の1つがベンジル位のHを引き抜き、
・H-X(ハロゲン化水素)
・フェニルメチルラジカル
ができる。
③伝搬段階2
②のフェニルメチルラジカルがもう1分子のハロゲンと反応し
ハロメチルベンゼンともう1個のハロゲンができる。
このときできたハロゲンが②で再利用されるので
反応がどんどこ起こっていきます。
※教科書なんかではよく「連鎖反応を伝搬させる」って書いてあるよ。
④連鎖停止反応
さてどうやって停止するかというと
ラジカル同士が反応した結果、ラジカルがなくなるので停止します。
参考:アルケンの反応⑤
さてでは、ベンジル位のハロゲン化が起こりやすい理由も説明しておこう。
まぁ予想がついている人もいるかもだけど
理由は以下のように
共鳴して安定化する
からだ。(だからベンジル型共鳴なんですな)
これによりベンジル位のC-H結合は
DH°=85kcal/mol
比較的弱くなるのです。
よって弱いエネルギーで反応が進行するってわけだね。
あとここまでの話で
ベンジル位以外のベンゼン環上のC-Hでもいいんじゃない?
と思った人もいるかもしれないけど
そうするとベンゼン環の芳香族性が保てないのでより不安定になってしまうのです。
…長くなりましたがキリがいいので本日はこの辺で~
ではまた次回。
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