アレーンジアゾニウム塩の特徴と反応①
まず最初に
アレーンジアゾニウム塩
を忘れている人は アミンの反応④
を読み直しておきましょう。
※第1級ベンゼンアミン(アニリン)のN-ニトロソ化によってできたものです。
あと解説済みなのはフェノールの合成に使えるってことですかな。
参考:フェノールの合成③
今回はこのアレーンジアゾニウム塩について
以下のような感じでもうちょっと掘り下げて解説していきます。
※既出が多くなってネタが枯渇している都合上
□特徴と反応をまとめます(ΦωΦ)
1.特徴
2.置換反応
3.ジアゾニウム基の還元的除去
4.ジアゾ化による1,3-ジブロモベンゼンの合成
5.ジアゾカップリング
それではいってみよー。
1.特徴
アレーンジアゾニウム塩は以下のように
ジアゾ基のπ電子と芳香環のπ電子が共鳴することによって
安定化される。
これは例えばCH3-N≡N等の
アルキルジアゾニウム塩なんかには見られない特徴だ。
こいつのおかげで安定性は
アレーンジアゾニウム塩>アルキルジアゾニウム塩
となる。
ちなみにアレーンジアゾニウム塩が安定な理由はもう1つあって
以下のような-N≡N脱離後の出来るアリールカチオン(C6H5+)っていうやつが
とっても不安定でエネルギーが高いんだ。
ぱっと見だと、ベンゼン環の一部に+がついてるだけに見えるから
共鳴で安定化するんじゃない?
と思うかもしれないんだけど、そういった事にはならない。
なぜなら+がある空の軌道はsp2混成軌道で
芳香族的な共鳴ができるπ電子が入っているp軌道に対して垂直な方向にあるからだ。
※ここで?になってしまうようなら
□共鳴にかかわる原子は全て同一平面上
□という言葉を思い出そう(参考:共鳴)
なのでこの軌道はπ結合と重なりを生じることができない。
だから正電荷は非局在化できない。
さらにさらにsp2混成軌道部分のCはHが取れたおかげで
sp混成軌道の形をとった方が安定にはなるわけなんだけど
実際のところベンゼン環が硬いせいもあってそういった形がとれない
つまりは構造的に歪みがある状態になっているんだ。
2.置換反応
さてさっきの説明から
フェノールの合成③ で紹介したアリールカチオンの
反応性がすごく高いという点も理解できたんじゃないかと思います。
※忘れていたら見直しといてください。
つまり-N≡N+部分さえ取れれば
この部分を求核剤に攻撃させて別の芳香族誘導体に変えれる
という話になるわけです。
このことを前提として
ここではこれを利用した置換反応について解説します。
(1)基本
まず求核剤が変わるとどうなるかについて説明しておきます。
[a]求核剤が水の場合
これは フェノールの合成③ で説明した通りだね。
以下のようにフェノールができます。
[b]求核剤がハロゲン化物イオンの場合
続いてハロゲン化物イオンで見てみよう。
例として以下のようにヨウ素イオンを使った場合は
ヨードアレーンが生成されます。
※アミンからアレーンジアゾニウム塩ができる反応は省略してます。
ただこの方法でハロアレーンを作ると
副生成物がたくさんできる、つまりは非効率的なので
あまり現実では使われません。
ではそれを解消するにはどうするのか?
っていうのを次でやります。
ちなみにヨードアレーンっていうのは
超原子価ヨウ素化合物(※)を合成する際の材料とかになるものです。
※安定で揮発しにくい
□反応性が高い
□毒性がほとんどない
□といった多くのメリットをもっているので
□医薬品やファインケミカルなどの分野でよく使われてるやつです。
(2)Sandmeyer反応
では(1)[b]で出てきた課題である
「ハロアレーンのみ」を抽出する方法を紹介していくよ。
毎度のごとくこの反応は
Traugott Sandmeyer(トラウゴット・ザンドマイヤー)という
発見したスイス人科学者さんの名前から来ています。
以下のようにCuCl(Cu(Ⅰ)塩)を使ってハロアレーンを合成する
というものだ。
この反応のポイントはCu(Ⅰ)塩が触媒として働くことで
ジアゾニウム置換基とハロゲンの交換がしやすくなっている点だね。
詳細な反応機構は複雑で
ラジカル中間体とかが出てくるのでここでは省略します。
興味のある人は調べてみてください。
この反応を使えば以下のように他のハロゲンだけでなく
CNをくっつけてニトリルを作ることも可能となります。
[a]Brくっつける場合
Clとの違いは温度条件が追加されたくらいだね。
[b]CNくっつける場合
過剰のKCN(シアン化カリウム)の存在下で
CuCN (シアン化銅(I))をジアゾニウム塩に加えることで
芳香族ニトリルを生成できます。
本日はここまで~
ではまた次回。
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