それではラストです。
前回の続きから

9.HBrのラジカル的付加反応

アルケンとハロゲン化水素の反応は
一番最初の 2.ハロゲン化水素の求電子付加反応
でやったけど、これをラジカル(※)的に反応させる。
※内容が怪しそうなら事前に
基礎編:ラジカル
基礎編:ラジカルの安定性
をご参照。

反応の内容だけ簡単にいうと、
空気中に放置しておいたアルケン と HBr
の反応だ。

さてここで 2.ハロゲン化水素の求電子付加反応 で紹介した
マルコフニコフ則のことを思い出してほしい。

「Hは置換基の少ないCに、ハロゲンは置換基の多いCに結合する」

だったよね。
見ての通り今回はになっている。
そう、これが所謂 逆マルコフニコフ の反応だ。

この反応が発見された当時
人によって反応の結果が違うものだから
結構驚かれていたらしい。

この反応が発生する理由としては
まずアルケンを空気中に放置することで
光などの影響により、過酸化物(ROOR)が出来る。
この過酸化物がラジカルを発生させる。
だからラジカル的な反応が起こるんだ。

さてこの場合に気になることがあるんじゃないかな。
じゃあ求電子付加反応では起こらないのか?
ってね。
これには反応の早さが関係していて、ラジカル連鎖反応の方がずっと早い
だからラジカルの連鎖反応が起こりうる条件下では
こちらの方が優先して進んでしまうんだ。

既に書いているけどこれは連鎖反応なので
とにかく安定な方に進む。
※後で出てくるけど
安定な方向がなくなると反応が止まります。
ちょっとその辺りを意識して読んでみてね。

①開始反応(ラジカルが発生)


ちなみに
Δは熱を加えたって意味で
ΔH
切断するエネルギー – 生成する結合エネルギー
の結果になります。

②伝搬段階1(ラジカルとHBrが反応)

この②以降はエネルギーが-(マイナス)にならないと
2.ハロゲン化水素の求電子付加反応
の方が優先されてしまう。
⇒連鎖反応は止まってしまうってことです。

③伝搬段階2(ハロゲンラジカルとアルケンが反応)

この段階で 逆マルコフニコフ になる。
なぜかっていうのはラジカルの安定性がどうなっていたか思い出してほしい。
※忘れていたら 基礎編:ラジカルの安定性

④連鎖停止反応

そして最後にもう一度ハロゲン化水素と反応して生成物が完成する。

さて↑の例でHBrと書いているけど、実はこの反応は他のハロゲン化水素では起こらない

HFとHClの場合は
HF、HClの結合エネルギー>RO-Hの結合エネルギー
なので②の部分でエネルギーが+になり、反応が止まる。

HIの場合は
HIの結合エネルギー>RO-Hの結合エネルギー
となるので②はOKだ。
だけどその次の③で
H-(CH=CH)の結合エネルギー>C-Iの結合エネルギー
でこれまたエネルギーが+になり、反応が止まってしまうという訳だね。

なのでこの反応はHBrでしか起こらない、ということも抑えておこう。
ちなみに過酸化物(ROOR)を使う場合の反応は以下のように描かれます。

10.アルケン同士の反応

これはまぁ、おまけみたいなものです。
そうなんだーくらいに考えてください。

とりあえず例として以下の反応を見てほしい。

これはアルケン同士が酸性水溶液(硫酸とか)中で反応している様子だ。
注目してほしいのは2つの同種の分子が1つのまとまった分子になっている点。
この1つにまとまったものを二量体といい
これを形成することを二量化っていう。

同じ分子を使えば当然、三量体、四量体…
と増やすことが出来るわけで、このことを重合っていいます。

この重合は結構 果てない数 で行えるので
ざっくり以下のようによんだりしてます。
・単量体:monomer(モノマー) ※重合の基準
・二量体:dimer(ダイマー)
・三量体:trimer(トライマー)
・四量体:tetramer(テトラマー)
(略)
・重合が有限個(10~100個):oligomer(オリゴマー)
・重合が100個以上:polymer(ポリマー)
※oligomer以上は諸説あります。

重合については他にも
ラジカル重合、アニオン重合、金属重合…などたくさんあるので
興味がある人は調べてみてくだされ。

特にポリマーは日常生活で大くに使われているもので
代表的なものは所謂プラスチック

例えば下のようにエテンの重合化でポリエチレンができる。
※nは莫大な数と思ってくれればOK

長くなったけどがアルケンの反応は以上です。
お疲れ様でした!

ではまた次回。

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それでは前回の続きから

6.ペルオキシカルボン酸による酸化

この項の詳細は
応用編:オキサシクロプロパンの合成 ペルオキシカルボン酸による酸化
に記載済みなので、忘れてたら読んでおいてね。

ざっくりといえば以下のような反応になる。

1点だけ補足をしておくと
反応後は以下のようにtrans体ができる。

理由としては
2反応は後ろ側からの攻撃されるため
言い換えるなら
お互い立体障害が少ない様に反応するため
からだ。

※詳細については
応用編のオキサシクロプロパン全般に記載しております。

7.四酸化オスミウムによるジヒドロキシ化

まず聞きなれない名前が出てきたと思うので
四酸化オスミウム(別名:酸化オスミウム(Ⅷ))について簡単に
化学式はOsOで、構造は以下のような感じです。

特徴としては
・強酸化剤
・猛毒
アルケンを1,2-ジオールへと変化させる(有機化学では有名)
ってところかな

※1,2-ジオールの反応はざっくりこんな感じ。

さてこいつを挙げているのは上述の
「6.ペルオキシカルボン酸による酸化」のをとれる。
つまりはcis体ができるからだ。

こいつについては実際に反応機構を追って見ていくとしよう。

①OsO4,THFの反応

この反応は1,3双極子付加反応といわれている。
反応としては 基礎編:S2 反応 で紹介した協奏反応になる。
で、段階で図の通りcis体になる。

理由としては見ての通りで同じ方向からOが同時に近づいて反応するからだ。
ちなみにこの同じ方向から原子が付加されることを
シン[syn]付加
っていう。
当然逆に違う方向から原子が付加されることもあるので
そちらは
アンチ[anti]付加
っていったりします。

②HOによる加水分解

まぁこちらは見たままの加水分解だね。
結果2つOH(ヒドロキシ基)がつくだから
ジヒドロキシ化が起こりますってことだね。

8.オゾン分解(オゾン酸化)

こいつはオゾンを使ってアルケンから2つのカルボニルを作る反応だ。
別名:ハリースオゾン分解
※発見者:カール・ハリースさんの名前が由来です。

よく紹介されるのがこんな反応だね。

オゾン(O)についてはこのページを見る人には説明不要かもだけど
以下のような構造で

・腐食性が高い
・刺激臭がある
・有毒
といった特徴だけでいうと結構ろくでもない物質だ。。。

まぁオゾンのことはいいとして
7.同様こいつも反応機構を追って見てみよう。

①Oの反応

最初のオゾンの構造を見て想像がついたかもしれないけど
こいつも7.同様に協奏反応が起こる。

気にしておいてほしいのは↑の反応後の生成物
・カルボニル
・カルボニルオキシド
とても不安定な状態になっている。
なので以下のようにすぐに分解が起こり
1,2,4-trioxolane(別名:オゾニド[ozonide])が生成されるんだ。

②(CH)2Sによる還元反応

そしてこのままだとオゾニドのままなので
求核性を持つ還元剤を使って求核攻撃をし、その結果としてカルボニルを取得する
という訳だね。

長く続きましたが次回で終了予定です。

ではまた次回。

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それでは前回の続きから

4.オキシ水銀化-脱水銀化

さて 水銀化 とまた聞きなれない単語が出てきたね。
この反応の目的としては
・Hg(OCOCH(酢酸水銀)
・H
を用いて、OH1個を置換基が多いアルケンのCにつける反応になる。
前回説明したマルコフニコフ則に従ってるから
マルコフニコフ付加とも呼ばれているね。
※酢酸は式で書くと長いので
以降はAcと記載します。
AcはAcetate(酢酸の略)なので
酢酸水銀はHg(OAc)ってことです。

では実際の反応を見ていこう。

2段階になっているから順番に説明するね。

まず最初の反応について
Hg(OAc)が以下のように共鳴し、Hgが電子不足なる。

このため、電子が豊富なアルケンの二重結合を攻撃する。

前回も同じような話があったよね?
そう今回も三角形が作られるんだ。

そして次の反応について
NaBHによるHgOAc部分がHに置き換えられる。

一応ラジカル機構で進行すると考えられているのだけれど
まだはっきりしていないので、ただのお勉強レベルで追及される機会があんまりないかな。
なのでそのまま覚えてしまっていいと思います。

5.ヒドロホウ素化-酸化

これは先ほど紹介した オキシ水銀化-脱水銀化 とは
逆のことをしたい時の反応だ。

つまり大きな目的としては
OH1個を置換基が少ないアルケンのCにつけたい時に使われるってことだね。
では例を見ていこう。

こちも2段階になっている。
そして真ん中に何だかよくわからない(汗)奴がいる。
・・・では順番に説明していくね。

まず最初の反応について
水素化と同じように同時にHとBHが近づいている。

なんでこういった動きになるかというとBHルイス構造で見てみるとわかりやすい。

電子が入るスペースが2つあるので結合が可能になるってことだね。

この後Bに残った2つのHも同じ道をたどる。
結果、以下のような謎の化合物になるんだ。

そして次の反応について、
とりあえず箇条書きしてみよう。

①HがNaOHによってH+奪われ、OOHが求核攻撃をする。

②転移反応(結合位置が変わって分子構造が変わる)が起こる。

③NaOHを使って加水分解反応が起こる。

さらっと描いたけど、加水分解反応は以下のようなイメージです。

XOが↓です。

上記を3回繰り返す
③のアルコールとホウ酸ナトリウムが生成する、というわけだ。

さて一連の流れを見ると、最初の反応でBHが結合した部分にOHがつくことが分かるよね。
BHは近づきやすい、すなわち立体障害の少ない方に結合する。
だから置換基の少ないCに結合するというわけだね。

ではまた次回。

 

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それでは前回の続きから

3.ハロゲンの求電子付加反応

まず
ハロゲン
とは書いたけど、実際は Cl,Br が対象になる。
※つまりF,Iは対象外

なぜかというと Cl,Br については

生成する結合エネルギーの総量 > 切断する結合エネルギーの総量

になっているので成立するんだけどIの場合は
生成するC―Iの生成する結合エネルギーが小さいため
切断するエネルギーを賄うことができていない。
なのでⅠについては反応が起こらない。
っていうことになっています。

そしてFはCl,Brと同じく
生成する結合エネルギーの総量 > 切断する結合エネルギーの総量
にはなるんだけれど
エネルギーの差が大きすぎて反応が付加するだけでは終わらず
さらに以下のように反応が進んでしまうのです。。

CH-CH=CH-CH + 9F
→ CFCFCFCF3 + 8HF

ご注意ください。

それでは本題の反応について、以下を例にみていこう。

前回の 2.ハロゲン化水素の求電子付加反応 と見た目はほぼ一緒で
アルケンとハロゲンを反応させると、ラセミ体ができる。

上述の通り見た目はほぼ一緒なんだけど
反応機構が以下のように違っているので別物になります。

まず1つのBrがアルケンへ求電子攻撃することで三角形が形成される。
どうしてこんなことが起こるかというと、Br分極しやすいからだ。


+Ⅰ、-Ⅰ効果が発揮されています。
↑忘れてたら 基礎編:酸性の強弱 を読んでみよう。

そして三角形形成後に
残ったもう1つのBrが求核攻撃を仕掛けることで生成が行われる。
この求核がどちらのCに対して攻撃するか
確率は半々なのでラセミ体が生成されてるって図式だね。

さてここもう一つ考えないといけないことがある。
何か分かるかな?

・・・そう、cistransについて考えないといけないんだ。

例を見た方が早いので以下に示すけど
出来てくるものが違ってくるので注意が必要です。

cisの場合

transの場合

※赤字の解説は 基礎編:ラセミ体とメソ体

さてラセミ体が出てくると
1.水素化反応 で紹介した
立体障害がある場合の生成物の偏り
があるんじゃないの?と思う人がいるかもしれない。
これについては偏りは発生しない、と考えられる。

なんでかっていうと差が出ているのは
三角形を作った
なんだよね。
作る前の攻撃はどちらから攻撃しようが変わらないので、立体障害による影響はないのです。

あと最初の例はわかり易いから
一つのハロゲンで紹介をしたけど
・2種類のハロゲン
・ハロゲンと水
なんかを使うと以下のように2種類の置換基が結合したものができまする。

Brで三角形作るところまでは同じで、そこから何が求核攻撃するかが変わるだけなので
反応機構は省略させていただきます。

・・・さて少し物足りないので
補足として今回紹介した内容に紐づく
教科書的な言葉の紹介をしておこう。

立体選択的反応

複数の立体異性体が「できそうな」反応で
1つの立体異性体が多くできる反応のこと。

例えば以下みたいなやつ

結局のところ配置のパターンとしては考えられそうだけど
反応機構で考えるとこういった動きはありえないってことだね。

立体特異的反応

cisやtransなど
違う立体異性体からそれぞれ違う立体異性体ができる反応のこと。

今回紹介した
cis+Br2 → エナンチオマー
trans+Br2 → メソ体
なんかがまさにそれだね。

似たような言葉だけど意味は全然違うので取り違えないよう注意してくだされ。

ではまた次回。

 

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さて今回はアルケンの反応について

主なものは以下(ちょっと多い…)

1.水素化反応
2.ハロゲン化水素の求電子付加反応
3.ハロゲンの求電子付加反応
4.オキシ水銀化-脱水銀化
5.ヒドロホウ素化-酸化
6.ペルオキシカルボン酸による酸化
7.四酸化オスミウムによるジヒドロキシ化
8.オゾン分解(オゾン酸化)
9.HBrのラジカル的付加反応
10.アルケン同士の反応

…長くなるけど、一つずついってみよー。

1.水素化反応

応用編:アルケンの特徴③

で紹介した 水素化熱 を覚えているかな?
ようはアルケン2つのHが結合してアルカンになる反応のことだ。

一番簡単な例でいうと以下のような感じ

さてこの反応は 発熱反応 になるのだけれど、通常の室温下では起こりえない。
なんでかっていうとH-Hの部分を切断するのに必要なエネルギー104kcalととても大きいからだ。
※専門じゃないけど室温だと20kcal以下くらいで進むものじゃないと反応は起こりにくいのです。

このため最初の山を越えやすくする(というより山を低くする)ためにPd,Pt,Niなどの触媒を使う。
こいつらは周期表の分類でいうとことの 遷移金属(遷移元素)と呼ばれるもので
電子をとったり入れたりしやすいから触媒によく使われてます。

そして、水素化反応については気にしてほしいことがもう一つ
以下を見てほしい。

平面だけ見てると忘れがちなんだけど、立体構造に差異があるので
結果としては2つの化合物が生成されている。
ただ構造式としては変わりはなくて生成される量にも差はないと考えていい。
所謂 ラセミ体 が出来ているってことだね。
※忘れてたら 基礎編:ラセミ体とメソ体

ただここに立体障害がある場合は話が変わってくる。
なぜならできるだけ妨害が少ないところから攻撃しようとするから
下のような反応となり、生成物に偏りが出てくるので注意してね。

2.ハロゲン化水素の求電子付加反応

ハロゲン化水素アルケンを反応させると以下のようにハロアルカンができます。

この反応は電子不足のH(※)
電子が有り余ってるアルケンの二重結合部分が攻撃することでHがくっつくので
求電子付加 と呼ばれています。
※電気陰性度高いBrに電子引っ張られてるからね

ここで気にしてほしいのは
アルケンの置換基が違った場合
Hとハロゲンがそれぞれどちらに付くのか?
ということだ。

例を見た方が早いので、以下を見てほしい。

結果が見ての通りで
置換基の少ないCに
置換基の多いCに Br
が結合したものが主に生成されることになる。

なぜなのか?というと
Hが結合した段階で
カルボカチオンがどういった場合に安定であったか?
を考えるとわかり易い。

上図の通りそれぞれに2級、1級カルボカチオンができてるけど
カルボカチオンがより安定だったのはどういった場合だっただろう?

そう
置換基が多い方
より安定だよね。
※ピンと来なかったら 基礎編:SN1反応に影響を及ぼす因子

このカルボカチオンが安定するお陰で
以下のように遷移状態も下に引っ張られる。
結果、反応しやすくなっているって訳なんだ。
※ピンと来なかったら 基礎編:反応速度

もう上に書いちゃってるけどまとめると
Hは置換基の少ないCに、ハロゲンは置換基の多いCに結合する
ってことだね。

ちなみに↑をマルコフニコフ則っていいます。
ロシアのウラジミール・マルコフニコフさんが発見した経験則
だからマルコフニコフ則。

実は限定的な条件下で起こるものなので
逆マルコフニコフ則というのも存在します。
※↑については別の機会に紹介します。

ではまた次回。

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