それでは続きを
さて前回の最後でも紹介したけど
エノールとカルボニル化合物(ケトンやアルデヒド)は互変異性体の関係にある。
このことをカルボニル化合物の部分をケト型と表現して
ケト-エノール平衡
っていうよ。
基本的にケト型が安定なんだけど
エノール型へも可逆的に反応するのでいずれ平衡になる。
※この辺の詳しくは後ほど
そして酸及び塩基触媒が少しでもあればケト-エノールの相互変換は早く進行します。
それではポイントを紹介していこう。
お馴染みの反応機構なんだけど
環境によって変わります。
ここでは代表的な2種類をご紹介。
[a]塩基性溶液中
[b]酸性溶液中
さて先ほどちょっと書いたけど
ケト型からエノールへの平衡定数は非常に小さいってことで、基本的に
エノール型にはなりにくい。
でもこの平衡が置換基によって変わって来るんだ。
ここでは分かり易い3つの例からどのように変わるかを説明していくね。
[a]アセトアルデヒドの場合
まず置換基が H と CH3 の場合
これはほとんどがケト型として存在する。
[b]アセトンの場合
では置換基が両方とも CH3 にしてみると
なんと[a]よりケト型が多くなる。
これはカルボニル基がアルキル基の電子供与性により安定化する影響だ。
まぁ見ての通りで
アセトンはアセトアルデヒドよりアルキル基が多い
だからケト型がより安定化するってわけだね。
[c]ペンタン-2,4-ジオンの場合
さて最後に変わり種を…
こいつは分子内で水素結合することで
エノール型の方が安定になる
すなわち、エノール型が多くなるんだ。
こういう特殊な例もあるので生成物の量は
必ずしも ケト型>エノール型 とは限らないってことです。
<オマケ>
まぁ今までの説明で分かると思うけど
エノールは可逆反応になる。
これを利用すると以下のように
全てのα水素をDに置き換えることができて
これを重水素交換と呼びます。
Dっていうのは重水素のことで
こいつは水素の同位体(陽子1つと中性子1つ)で2Hとも表記される。
英語名のdeuteriumの頭文字をとってDと書くこともある。
用途は色々あって便利ではあるんだけど…
同じく水素の同位体で3H(陽子1つと中性子2つ)の
三重水素っていうのもあってこいつの、別名は「トリチウム」です…
エノール化するとことによる変化の一つに
立体異性であったものがそうでなくなる
っていうことがある。
ただ3.の通り平衡状態にあるので
エノールから元に戻っていく。
ではこの時に立体異性体はどうなっているのか?
最後にこの点について説明しよう。
考え方は2つあるので順番に。
この場合以下のようにエノール化する立体異性体自体がなくなる。
これから元の立体中心(S)に戻るかと言われたら確率は50%になる。
だから反応が止まる頃には
(S)と(R)半々のラセミ体が出来てくる。
とりあえず(1)と同様にα水素は(S),(R)の半々になる。
でも上の通りでα炭素以外の立体中心は変わらないんだ。
ということでシス体からトランス体に変わるものがでてきます。
生成量はどっちが多いか分かるかな?
答えは立体障害の少ない ●●●体 ダヨ。
※ わからなかったら 応用編:アルケンの特徴③ をご参照
ではまた次回。
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