今更だけど「合成」っていうのは反応を使って目的となる化合物を作るっていうこと。
カルボン酸の特徴① でお話させてもらったように
カルボン酸は日常にありふれた存在だ。
目的物がありふれた存在っていうことでやり方は色々あるし
もっといえば使用用途の幅が多いっていう事でより効率的な合成方法が研究されているものでもある。
合成というと実験室なんかでちまちまやっているイメージがあるかもだけど
それだけっていうわけでもなくて、大規模な工場や生物の体内なんかでも行われているのです。
といった感じで全部見ていくとキリがなくなるので
ここでは大きく以下の2つの視点で解説していくこととします。
1.工業的合成法
2.カルボキシ基の導入方法
それでは順番にいってみようー。
特徴でも説明した通りなんだけど、カルボン酸は反応剤としても合成の材料としても有能なんだ。
言ってしまえば某「ずっと俺のターン」カードゲームにおける単体でも強い上に融合も可能な
ブラック・マジシャン
ブルーアイズ・ホワイト・ドラゴン
みたいな立ち位置といって過言ではない。
この2つは累計1万種類となった現在においても
他と比べて以上に種類を増やして大量生産されている…
大分脱線してしまったけどまぁ大量生産繋がりとして
特によく使われるカルボン酸としては
ギ酸
酢酸
がある。
こいつらは工業製品として大量に合成されている代表格なので実際にどういった合成方法で生産されるのか見てみよう。
ギ酸は製皮業で皮をなめしたりラテックスの生産で使われていて、蟻酸とも書く。
見ての通りアリに関係するものなんだけど
そこら辺はググってみてくだされ。
蟻の中で毒液を飛ばすやつがいて、この毒液の主成分がギ酸らしいです。
ギ酸の合成方法は下のようにNaOHとCOを加圧化で反応させ
その後にプロトン化することで合成される。
言わずと知れた食酢に含まれるカルボン酸だね。
酢酸の生産量は全世界では年間5メガトン(※)日本でも0.5メガトン程あって
重合用のモノマーや医薬、染料、殺虫剤など用途は多い。
※megaton 質量の単位で=100万トンに当たります。
上記の通り使用用途の幅が特に広いので
合成方法がたくさん研究・発見されている。
で、ここでは代表的なものを3つ紹介していきます。
※全部強力な酸化剤で酸化するという方法です。
[a]エテンの酸化
CH2=CH2(エテン)を
CuCl2(塩化銅(Ⅱ))を加えた
PdCl2(塩化パラジウム(Ⅱ))の希塩酸溶液を触媒に用いて酸化することで
以下のようにCH3CHO(アセトアルデヒド)を経由して酢酸を作ることができる。
この手法はドイツのWacker Chemie(ワッカー・ケミー)という化学産業会社で発見されて
Wacker法、Wacker反応、Wacker酸化などと呼ばれています。
※正式名称は親会社であったHoechst AG(ヘキストAG) を加えて、Hoechst-Wacker法となるんですが
□Hoechst AGが合併されて消え去った影響か、現在は上記のように省略することが多いです。
また以下と同じ方法でCH2=CH-CH3(プロペン)を酸化して
CH3-CO-CH3(アセトン)にする方法も同じ名前で呼ばれています。
[b]ブタンの空気酸化
見ての通り[a]と同様にアセトアルデヒドを経由してできる反応だね。
ちょっと小難しいことが書いてあるけどやりたいこととしては
ブタンが液体状態である限界の高温で反応を進行させられるように
圧力(15~20atm)と温度(180℃)を設定しているって意味だ。
現在は大人の事情(お金)の問題で次の[c]にとってかわられている。
ただこいつにも利点はあって副産物として出来てくる
メチルエチルケトン
酢酸エチル
ギ酸
プロパン酸
なんかが中々に美味しい市場価値をもっているんだよね。
なので何をどういった比率で取得するかによっては採用されたりします。
[c]メタノールのカルボニル化
大部分の酢酸はこの方法によって生産されて…いた。
Monsanto(モンサント)法と呼ばれているんだけど名前の経緯も
実際の製法も少し複雑なので詳細に興味がある人はwikipedia「酢酸」を検索してみてください。
さて上で「…いた。」として通り、実は現在はまた主流が入れ替わってしまっている。
現在はイギリスのBPケミカルズが作成したCativa(カティバ)法が完全に主流になっている。
Monsantoとの違いは触媒部分がIr(イリジウム)になったくらいでほとんど違いはない。
だけれど経済的にも環境的にもこっちがいいらしい。
※これもwikipedia「カティバ法」で出てきます。
こういった感じで化学の世界は日々進歩する、生存競争が激しい世界なんだ。
もしこの世界に足を突っ込むのであれば、是非
自分の名前を世界史に残すぞ!
くらいの気概で挑んでください。
ではまた次回。
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