エノラートとエノールの特徴①

さていきなり聞きなれない単語かと思うけど
まずは大枠の説明をしておこう。

アルデヒドとケトンの特徴 とかで触れた中で以下のような
構造があったのを覚えているかな?

まずはこの
α炭素[α―carbon]
α水素[α-hydrogen]
について
α炭素っていうのはわかり易くて官能基の隣にある炭素のことだ。
で、この名前の付け方が水素原子にも適用されていて
α炭素に結合している水素原子=α水素
となっているんだ。

今回のタイトルとなっているエノラートとエノール
この主にこのα水素、α炭素が関係してくる内容になるので
まとめております。
で、ポイントは以下の4つ

1.エノラート
2.エノール
3.ケト-エノール平衡
4.エノール化による立体異性化

では順番に行ってみようー

1.エノラート

(1)エノラートとは

まずエノラートが結局何か?ということなんだけど
α水素が脱離すると以下のような陰イオンができる。
この陰イオンのことがエノラートイオン[enolate ion]
と呼ばれていて、こいつを省略してエノラート[enolate]
と呼んでいるんだ。
※で、エノールは?と思ったかもしれないけど
後半で解説するのでご安心を。

さてまぁ想像ついているかもしれないけど
ポイントは、なぜα水素が取れるのか?
というところだね。

細かいところは 基礎編:酸性の強弱 で復習をしてもらえばと思うけど。
ようは共役塩基であるエノラートが共鳴している方が安定だからだ。

エノラートの真ん中の共鳴構造が分かり易いと思うけど
α位の負電荷は正に分極したカルボニル炭素の誘起効果によって安定化するんだ。
あと、負電荷は電気陰性度の高いO側にあるのでさらに安定です。

さて上図についてもう一つ、OとCの両方が負電荷を持っているよね。
この特徴から、どちらの部位も求電子剤を攻撃できる
アンビデント[ambident](※)
な反応剤と言われています。
※意味としては
2か所で攻撃でき、それぞれ違う生成物ができるもの
語源はラテン語のambi(両方の)とdens(歯)
が合わさってambident(2本の牙を持つ)になってます。

上の説明で察してくれた人もいるかもだけど
ハロアルカンのような2反応起こせるような相手には
求核置換反応を起こすことが出来る。

構造を見ると分かる通りアルキル基をくっつけることができるので
アルキル化(alkylation)と呼ばれています。
一応正確に言うとCにアルキル基くっつけるから
C-アルキル化 とも呼ばれます。
※あんまりないけど
OにくっつけるO-アルキル化ってのもある。

(2)エノラートの合成方法

さて、さらっと流していたけど、エノラートを作るために(1)では強塩基を使っていたよね。
ここでは基本的にLDAt-BuOK[potassium tert-butoxide:(CHCOK]などの強塩基が使われる。
LDAは
Lithium diisopropylamide
の略で以下みたいなやつです。

作り方は以下の通り

n-buLiとはnormal-butyllithiumの略だ。
何がnormal?と思うかもだけど
有機化学では直線状って意味で使われる。
つまり、炭素鎖が直線なCHCHCHCHLiっていう意味です。

この反応はdiisopropylamineがbutaneよりpKaが低いから起こる。
またLDAはかさ高いので、カルボニル基に対する付加反応も起こりにくく
安定であるってこともポイントだね。
で、こいつを冒頭のようにカルボニルに使ってα水素をとればエノラートになるってわけだね。

2.エノール

さて1が結構長かった分2はシンプルだ。

1.で説明したエノラートイオンのプロトン化によってできる
不飽和アルコールはアルケノール(alkenol)って呼ばれている。
これを略してエノール(enol)というんだ。


※catはcatalyst(触媒)の意味。

このプロトン化は触媒量の酸または塩基で起こすことができる。
あとエノールはアルデヒド、ケトンの異性体(互変異性体)と呼ばれてる。
こいつは不安定ですぐに異性化して元のカルボニル化合物(アルデヒド、ケトン)に戻ります。
矢印が両方を向いてるので?かもしれないけど
一部例外を除くと基本はカルボニル化合物側に平衡は偏ってるのです。

ではまた次回。

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