カルボン酸の反応④

それでは続きからー

1.カルボン酸誘導体

(5)エステルの合成法

さて今まで何度も出てきたエステル(ester)さん。
自然界に多く存在し、用途も多いのでカルボン酸誘導体の中で最も重要です。

もっとも重要なだけに中々にボリュームがあるので
大きく3つに分けて説明していくね。

(5)-1 エステルの合成方法

応用編:アルコールの反応③
の段階ではそこまで深く話しても分からないと思ったので軽く
「カルボン酸とアルコールが反応することでエステルが生成する」
で流したんだけど、ぶっちゃけカルボン酸とアルコールだけを混ぜてもエステルは生成されない
塩酸や硫酸のような無機酸を加えることで
初めて以下のように平衡反応の中で縮合してエステルと水が生成されるんだ。

これを
フィッシャー(・スペイア)エステル合成反応[Fischer(-Speier) esterification]
と呼ぶ。
※予想されてる通り
エミール・フィッシャー
アルトゥル・スペイアによって作られたのでこの名前です。

ではメインの反応機構を見ていこう。

反応機構は3段階になるので順番に説明します。

①カルボキシ基のプロトン化

まずはC=OのOが酸触媒によってプロトン化される。

反応後の共鳴構造を見て分かる通り
C=OのCが+に帯電している共鳴構造が全体の三分の二あるよね?
このことにより実際には+を持ってる状態となっている。
つまりはプロトン化された時点で求核攻撃受けやすい状態になっているんだ。

②アルコールによる攻撃

①で説明した通り求核攻撃しやすくなったC=OのOが求核攻撃される。
この結果、四面体中間体ができる。

③水の脱離

最後は以下のように水が脱離してエステルになるってわけだね。

 

(5)-2 エステルの合成に影響を与える因子

さてこのエステルの合成反応はそこまで発熱はしない反応だ。
言い換えるならエステルが多くできる方向に平衡は傾いてないってこと。

じゃあどうやってエステル側に平衡を傾かせるのか?
を考える必要がある。

方法は2つあって

①出発物質(カルボン酸とアルコール)を大量に使う

今までの話をまとめると可逆反応ということがわかる。
ようするに最終的に反応が落ち着く時の出発物質と生成物の比は量に関係なく同じということだ。

例えるならば頭の悪い職場でよくみられる

非効率的な方法を見直さず
大量の人材を無駄に消費して
とりあえず成果をあげる

ってことだね。

まぁ現実的な話として、扱うのは魂のあるものではないし
生成→消費をまっとうな金額でやりとりすることは経済の健全なサイクルなので
こういったアルコールを大量に使うことが一般的な方法になっています。

②生成物(エステルや水)をその反応系からとる

考え方としては①の逆となる。

何が言いたいかというと
生成物を減らせば出発物質は生成物に合わせようと自分の身を削ってくれる
という考え方だ。

例えるならばブラックかつ悪辣な職場でよくみられる

仕事量は増える一方だが人員は増やさない
→でも今の人員でも残業すれば仕事出来てるじゃん
というクソの極み思考で人をモノ扱いにして使い捨てにする
っていうアレだね。

方法としては濃硫酸の脱水作用を利用して水を反応系から除去していくものがあり
代表的なものとしてディーン・スターク装置というものがある。
※興味があれば調べてみてね。

エステルの合成反応の逆反応であるエステル→カルボン酸の反応は
エステル加水分解(ester hydrolysys)
と言われているんだけど、ようはこの
エステルの加水分解を優先して発生させるにはどうすればよいのか?
ということを考えれば②の方法を活かすことが出来るんだ。

まぁ最初に書いた通りこいつは①の逆を考える。
具体的に言うと、過剰の水を使って反応させるってことです。

(5)-3 分子内エステルの合成方法

さて、最後にもう1つ、分子内エステルについて説明しよう。

以下のようにヒドロキシカルボン酸(hydroxycarboxylic acid)
触媒量の無機酸で反応させると分子内でエステル化し
環状エステル(ラクトン[lactone])になるんだ。

※ヒドロキシカルボン酸はカルボン酸+OHの化合物です。
オキシ酸、オキシカルボン酸とも呼ばれます。

これは分子内エステル化(intramolecular esterification)と呼ばれ
五、六員環になる場合にできやすい

反応機構は下の通り。

まぁ見ての通りで
ヒドロキシカルボン酸のOHとCOOHが脱水縮合して
ラクトンができるってことです。

ではまた次回。

 

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