β—ジカルボニル化合物の特徴と反応⑦

それではラストです。

9.アセト酢酸エステル合成法

acetoacetic ester synthesis

これは前回説明した、一連の反応(※詳しくはこちら
で、出発物質である
β-ジカルボニル化合物
にアセト酢酸エステルを用いる方法だ。

ざっくりと書くと以下のようになる。

さてわざわざ紹介するくらいなので
当然のことながらこの合成法には「利点」がある。

この合成法を用いることで
以下のようにC3
1つまたは2つの置換基を持つ
メチルケトン類を合成できるんだ。

さてここまで見たときに勘のいいひとだったら

でもこの反応ってエノラートのアルキル化
(参考:エノラートとエノールの反応②

でいいんじゃない?
と思うかもしれないね。

実はこちらの方がエノラートのアルキル化よりも有用なのです。

理由としては以下のように
α水素のpKa
β-ジカルボニル化合物の方が圧倒的に小さい
からだ。

ケトンのpKa:約20 > アセト酢酸エステルのpKa:約10

どういうことかというと
エノラートは反応に強い塩基が必要
なので副反応(E2反応など)が起こって別の生成物も出来てしまう

一方アセト酢酸エステル合成法の場合
β-ジカルボニル化合物のα水素のpKaが小さいので
弱い求核剤で反応が起こり
結果としてE2反応などの副反応が起こりづらい
(参考:E2反応

だからアセト酢酸エステル合成法の方が
エノラートのアルキル化に比べて有用といえるんだ。

10.マロン酸エステル合成法

malonic ester synthesis

栗みたいな名前がついているけど反応としては以下のような感じ

出発物質のβ―ジカルボニル化合物に
マロン酸エステル(上の例だとプロパン二酸ジエチル)を用いて
アルキル化後に脱炭酸する方法だ。

こいつもC3に1つまたは2つの置換基をつけることができる
アセト酢酸エステル合成法との大きな違いは見ての通りで
カルボン酸ができるっていうところです。

さてこいつもさっきみたいに
エステルエノラート
(参考:カルボン酸誘導体-エステル③)でよくない?
と思うかもしれないけど

こいつについてもエステルから最初にHとるのに強塩基が必要なので
結果E2反応が起きて副生成物が出来てしまう。

一方のマロン酸エステルはエステルよりも
pKaが圧倒的に小さいので
弱い求核剤でも反応が起こせるんだ。

エステルのpKa:約25 > マロン酸エステルのpKa:約13

ご参考までにハロアルカン以外の弱い求核剤として以下などがあります。

※求核剤なら何でもいいというわけではなく、
2反応の限界と同じで第三級ハロアルカンはダメです。
(参考:求核と脱離の起こりやすさ

さて、最後に久しぶりの問題を。
シクロヘキサンカルボン酸をマロン酸エステル合成法で作ってみましょう!
※作り方を考える際は、β-ジカルボニル化合物の特徴と反応⑤を参考にしてみてね。

 

 

<回答例>
どこを切り離したらマロン酸エステルを作れるか
を考えてみると以下のようになります。

そして、詳細な反応機構は下の通りとなります。
※本当はもっと簡略化した形で書きますが分かりやすくするために細かく書いてます。

だんだん出発物質や反応物質が複雑になるので
ややこしくなってるように見えますが、
基本は同じ ですのでしっかり復習していきましょう。

ではまた次回。

 

© 2023 猫でもわかる有機化学