β—ジカルボニル化合物の特徴と反応⑤

それでは続きから~

7.Claisen縮合の合成反応への応用

さて、今までにいろいろなClaisen縮合が出てきたけど
今度は

Claisen縮合使ってこの生成物を作れるのか?

といった視点での考え方について説明していこう。

まずこういった目的の生成物を作るための合成手順
を考えることを逆合成解析と言います。

当然のことながらこれはClaisen縮合に限った話ではなく
化学物質は いかに低コストで大量生産できるか というのが
商売の世界では重要なポイントなので
既に合成方法があったとしても
別の効率的な合成方法を考える
っていうのはとても大切なことなんですよね。

例えばあるゲームにおいて
ものすごく手間をかけて合成しないといけない武器が
あるバグにより半分の労力でゲットできちゃいます
って状況なら後者を選択しますよね?
つまりはそういうことです。

さてそれでは話を戻して、具体的なところを見ていこう。
Claisen縮合の場合は以下の特徴がある。

(1)生成物は1,3-ジカルボニル化合物
(2)出発物質の1つはエステル(-CO-OR)
□□□反応途中でアルコキシド基(-OR)がなくなる
(3)出発物質のもう1つにはα炭素上に酸性の水素が2つ必要
□□□※エノラートになる必要があるため
□□□※混合Claisenを考えるなら一方の出発物質は自己縮合できないもの(α水素無し)

さて復習がてら上記を読んでもらったところ
下記の 2-benzoylcyclohexanone
がClaisen縮合で合成できるか?を考えます。

前提の補足として、ちょっとわかりにくいかもしれないけど
2-benzoylcyclohexanone は 1,3-ジカルボニル化合物なので
(1)には当てはまります

で、ポイントとなるのは
Claisen縮合でどの部分のC-C結合が出来たか?
という点だ。

今までのClaisen縮合を見ていれば
Claisen縮合で出来るC-C結合
2つのカルボニル基(C=O)の間ということが分かると思う。

これに当てはまるのはa,bの2つだ。

ではこのa,b部分をそれぞれ切断しORをつけてみよう。
すると以下のようになる。

見ての通り、a,bどちらを切断してもClaisen縮合は可能なんだ。

結合aの切断を考えた場合
分子内Claisen縮合が出来たということが分かる

結合bの切断を考えた場合
シクロヘキサノンと安息香酸エステルがClaisen縮合を起こしたということが分かる。

ということでa,bどちらでも可能・・・という話になってしまうのだが
ここで最初の話を思い出してほしい。

ポイントは
「化学物質はいかに低コストで大量生産できるかが」
だったよね?

低コスト=なるべく安く
大量生産=なるべくたくさん

大量生産はよっぽど生産効率に差があれば話が変わってくるんだけど
簡単な考え方の一つとして

低コスト=複雑な化合物を使用しない(調達しやすいものでやる)
っていう考え方があります。
製造コストが安い→購入費用も安いっていう考え方だね。

今回の場合はこの考え方をそのまま適用してしまって問題ない。
また、今回はもう1つ反応の起こりやすさでも違いがある。
忘れていたら
参考:β-ジカルボニル化合物の特徴と反応②
を読み返してほしいんだけど、今回の場合反応が起こりにくいのは
分子内Claisen縮合 の方だ。
つまり最適解としてはbになるってわけだね。

今回は細かくみるとキリがないので分かりやすいものを
紹介させていただきました。
他にも色々とやり方はあるので探してみてください。

ではまた次回。

 

© 2023 猫でもわかる有機化学