環状共役ポリエン②

では前回の続きから

2.環状共役ポリエンの分子軌道

Diels-Alder反応でもよく出てきたものだけど
環状共役ポリエンについても分子軌道を見ることで
芳香族が安定、反芳香族が不安定の理由が説明できる。

以下の例で見てみよう。
※反芳香族は1,3-cyclobutadiene、芳香族はbenzeneを例にしています。

1,3-cyclobutadiene、benzeneはそれぞれp軌道を4,6個持つので
上記のようなsp混成軌道とそれに合わせた電子の収まり方になる。
※ピンと来なかったら 基礎編:原子軌道 を読み直そう

1,3-cyclobutadieneは見たとおり中途半端に電子が入り、2個分が満たされない
この状況では閉殻構造(原子の最外殻に最大数の電子が入っている状態)が取れず不安定になる。
これなら混成軌道にするより1個1個別々のp軌道にして
エネルギーが高くも低くもない状況の方がはるかにましだ。

一方benzeneはきれいに各分子軌道が埋まるため、閉殻構造が取れ、安定化する。
こっちは逆にsp混成軌道なった方が安定化するというわけだ。

そして非芳香族だけど
数に決まりがないんだから、安定にも不安定にもなるんじゃないの?
と思うかもしれない。
個別に説明していくと…未来永劫の時が過ぎてしまうので今回は1つだけ紹介します。
これで何となく理由がわかってもらえると思うので…
※1,3,5,7-cyclooctatetraeneを例にしています。

8個のp軌道があるので8個のsp混成軌道ができる。
で、平面と考えると左側のようになるんじゃない?と思うかもしれない。
が、実際には折れ曲がるので右側のように分子軌道のエネルギーがずれる

そして、これなら芳香族のように安定化するんじゃない?と思うかもしれない。
けど芳香族って平面だから電子が非局在化できたわけで
折れ曲がると電子の非局在ができないんだ。
電子の非局在化ができない代わりに
電子が2個ずつ仲間外れを作らないことを優先しているってわけだね。
要するにいいとこも悪いところもある
だから非芳香族は安定でも不安定でもない、というわけなんだ。

3.Hückel則

さて1でも少し触れたがけど
4n+2 をHückel数という。

まぁほぼそのまんまになるんだけど
ようはこの式を満たせばcationやanionになってから
芳香族性を持つってことが推測できる規則ってことだよ。

なぜこういったことが分かるのか?というと
これは電荷を持つ不安定さより芳香族性を持つ安定性の方が勝っているからなんだ。

例えばcyclopentadienyl がanionになった場合
以下のようにanionになるとπ電子が6つになり、4n+2を満たすため、芳香族の性質を持つ。

ちなみにこの時のpKaは16
普通のアリル系が40くらいなのでどれだけanionになりやすいかが分かるよね?

またcycloheptatrienyl がcationになった場合

こいつもπ電子が6つになり、4n+2を満たすため、芳香族の性質を持つ。
ちなみに勘のいい人は気付いているかもしれないけど
逆にcationやanionになることで反芳香族になるものは
当然cationやanionになりにくい…ということなのでご注意を。

そしてちょっと意外かもしれないが
以下のようにanionを2つ(dianion)持ってるけど芳香族性を持つものがある。

1,3,5,7-cyclooctatetraeneは平面ではなかったけど
dianionになることで平面になり、π電子も10個になるので芳香族性を持つというわけだ。
ちなみにこの例は
1,3,5,7,9,11,13-cyclotetradecaheptaene([14]annulene)
だ。書くの面倒なので興味がある人は是非調べてみてください。

さて、ここまで言って何が言いたいのかというと、
電荷あるなしに関係なく、平面4n+2に当てはまれば芳香族性になるということだ。

今回はここまで~次回でラストです。

ではまた次回。

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