カルボン酸誘導体-アミド③

それではラスト~

4.Hoffmann転位

(1)アミダートイオン

さてHoffmann転位について説明する前段階として重要な要素となる
アミダートイオン
について説明しておこう。

既に説明はしているけど、アミドにおいては
・アミドカルボニル基の隣のCについているH
・NについているH
共に酸性だ。
※参考 応用編:カルボン酸誘導体の特徴②


赤いHのことね。

で、気にしおいてほしいのは
この2つを比較した時に、どっちのHが引き抜かれやすいか
っていう点だ。

結果を見ると

CのpKa=30 < NのpKa=22

となり、NについているHの方が酸性が強いことがわかる。
ということで特に何も考えずに進めると、以下のようにN側のHが塩基によって引き抜かれ
amidate ion(アミダートイオン)ができる。

このアミダートイオンの働きを利用しているのが表題のHoffmann転位になります。
細かい話は後半を読んでください。

ちなみに
何が何でもC側のHを奪ってamide enolate(アミドエノラート)を作りたい!
と思う人もいるかもしれないので補足しておくと
一応N側をブロック(Hを別の置換基に変換)して第3級アミドにするば出来なくはないです。

(2)Hoffmann転位

さて(1)で説明したアミダートイオン、
正確に言えば第1級アミンをの脱プロトン化によってできるアミダートイオン
は、合成においては空間を削り取るスタン〇、ザ・ハ〇ドのように距離を縮めることのできる
有能な求核剤
になります。

この働きを利用したのが
Hoffmann転位(Hoffmann rearrangement)
だ。
この反応により、カルボニル基が分子から追い出されて
炭素鎖からCが1個減った第1級アミンが生成できます。
※Xはハロゲンです。

予想はつくと思うけど名前の由来は1800年代ドイツの化学者
アウグスト・ヴィルヘルム・フォン・ホフマン(August Wilhelm von Hofmann)
さんからきています。

この反応は結構複雑な段階を踏むので、順番に説明していくね。

①アミダートイオンの生成

最初に説明した通りなんだけど
まず、Nが脱プロトン化され、アミダートイオンが生成される。

②ハロゲン化

次にNのハロゲン化が起こる。
アルデヒドやケトンのエノラートのα炭素のハロゲン化(※)とよく似た感じです。
※参考 応用編:エノラートとエノールの反応①

③N-ハロアミダートの生成

続いて
N上の2つ目のH
が2当量目の塩基によって引き抜かれ、N-ハロアミダートが生成される。

④ハロゲン化物イオンの脱離

それからハロゲン化物イオンが自然に脱離する
↑の状態を見てゾワゾワを感じた人はいい勘をしている。
生成物は6電子しかない上、電荷がないNを持っている…
ということでとても不安定な状態だよね。

これはnitrene(ナイトレン)と呼ばれる中間体で
カゲロウやセミのごとく寿命が短いんだ。

今回はアシル基(R-C=O)があるので
acylnitrene(アシルナイトレン)
になります。

⑤転位

Hoffmann転位では、アシルナイトレンのアルキル基の1,2-移動が起きて
COの窒素類縁体である
isocyanate(イソシアナート)R-N=C=O
ができる。
※④の寿命が短いので④⑤を一つとして説明されることもあります。

⑥ 水和によるカルバミン酸の生成と分解

イソシアナートのsp混成カルボニル炭素は求電子性が高く
Oによって攻撃されて、不安定なcarbamic acid(カルバミン酸)ができる。

そして最後にカルバミン酸COアミンに分解される。
あとこの反応は液体中で行うんだけど、最後にできるCO気体なので反応系からなくなるんだ。
何が言いたいかというとこれにより、よりアミンができる方向に傾くのでより反応が進みやすくなります。

最後に補足を
実は実用性上では似たようなことを出来る
Curtius(クルチウス)転位
というものがあってがあってこっちが主流なんだけど
生き残れている理由がある。

ポイントは⑤の転位の段階で、Rは反応前からカルボニル炭素に結合しているNに対して
同じ面を向けながらカルボニル炭素からナイトレン窒素へと立体配置を保持出来るっていう点だ。

ちょっと分かりづらいと思うんだけ、この「立体保持で転位ができる」
ってところがとても有用になってくるのです。

ちょっと扱いが難しいと思うけど
この部分を理解して、扱えるようになれば強力な武器になるので
しっかり理解しておくことをおススメします。

ではまた次回。

 

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