それでは前回の続きから
タイトルのまんまで前回の1.で作ったハロゲン化したアリルでの求核置換反応のこと。
こいつの場合はSN1反応とSN2反応の両方を起こすことができます。
順番に説明していくね。
一応理由を補足しておくと
中間体のカルボカチオンが共鳴できるため、安定化するからだね。
まぁよくわからなかったら
基礎編:SN1反応、SN2反応 あたりを読んで復習してください。
で今回ここで紹介したいのがこの反応の反応速度について
結論からいうと第1級ハロアルカンよりも数十倍速い。
理由は2つ
1.反応を起こすために必要な活性化エネルギーが小さい
2.sp2炭素があるため
まず1.について 応用編:アリル系の特徴① で紹介した話になるのだけれど
アリル系では二重結合とその隣の炭素のp軌道が重なり合い、安定化する。
そのため反応を起こすために必要な活性化エネルギーが下がるってことだね。
そして2.は 応用編:アルケンの特徴① で紹介したs性の話になる。
s性はsp2炭素>sp3炭素だったよね。
ということは電子求引性もsp2炭素>sp3炭素となる。
このおかげで、より+が強くなるので、-である求核剤の求核攻撃を受けやすくなる。
以上2つの理由から
アリル位ハロゲンの求核置換反応が第1級ハロアルカンとくらべて格段に速いってことだね。
有機金属反応剤については 応用編:アルコールの合成③
で紹介しているので詳しくはそちらをご参照。
ここではアリルを有機金属反応剤にする方法を解説します。
方法は以下の2つ
(1)アリル位の脱プロトン化
(2)Grignard反応剤
順番に解説するね。
脱プロトンが?だったら 基礎編:SN1反応 をご参照。
簡単にいうとアリルにアルキルリチウムを反応させて、アリルを有機金属反応剤にする方法だ。
初出なので解説しておくとTMEDAっていうのは
(CH3)2NCH2CH2N(CH3)2:Tetra methyl ethylene diamine
の略だ。
こいつはいろんな金属塩(例でいうLi)に対して
配位子を結合させ、安定な錯体を作ることが出来る。
簡単にいうと金属イオンを有機溶媒に溶けさせることが出来る。
例には描いていないけど、Liは2つのCH2=CHCH2
の間で挟まれるような配置になっている。
ちょっと脱線するけど
この多座配位子(配位結合できる腕を複数持つ配位子)が中心金属に配位結合したものを
化学ではキレートといいます。
ちなみに消防法にも定められている中々の危険物なので
もし扱うことがあればご注意を。
で、なぜこんな反応が起こるかというと
pKaを見てみると原因が見えてくる。
pKaが小さいほど酸性が大きいからよりHを出しやすかったよね?
※ピンとこなければ 基礎編:酸・塩基の平衡 を
アリルとアルカンのpKaを比較してみると
アリル(CH2=CHCH3)のpKa < アルカン(CH3CH2CH3)のpKa
という関係になっている。
つまりアルカンがLiを持ってる状態より
アリルがLiを持ってる状態の方が安定。
だからアリルが有機金属反応剤として働くんだ。
英語で書いているけど、こいつは
応用編:アルコールの合成③ で紹介させてもらった
グリニャール試薬と同じようなもので、この場合は
アリル位ハロゲン化物を
アリル位マグネシウムハロゲン化物にする反応のことだ。
でこのアリル型有機金属反応剤が何に使えるのかというと
例えば以下のようにアリルをいろんなところにくっつけたい時に使えるんだ。
応用編:アルコールの合成③ でも紹介した通り
こういった有機金属反応剤は昨今の有機合成には欠かせない
有機合成界隈のマルチタレントといってもいいものなので
忘れていたら覚えなおしておいて下され。
ではまた次回。
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